昔のハツリ跡

平城京跡に陽は落ちて……

平城京跡には何度か行ったことがあったのですが、広過ぎていつも全部見れた気がしなかったので出かけてきました。

平城京跡は新しく南門が復原されたりずっと整備され続けているのですが…あれっ、こんな建物あったっけ???

資料館のようだ…「平城京いざない館」入場無料 とある。

中は……ヤバい……あらゆる意味でヤバい。これは無料で見せるクオリティではない。博物館並みに展示が充実している。瓦や木簡もたくさん見れるし、

建物の木組みの模型や

何分の1スケールか確認し忘れましたが

建物の構造がわかるように、やたら大きな模型が展示してあります。

この「いざない館」だけで数時間は過ごせるくらいの充実ぶり。これではまた広い広い平城京跡を回りきれない。。。

これはもう遠くから見ただけでピンとくる。井戸枠に違いない!

ここでも実物が展示されているのが有り難い。形が丸でも四角でもなさそうので不思議だなと思っていると、発掘時の写真もあり

六角形の井戸枠だったようです。六角形にすると、四角形に比べると角度の計算やら面倒くさい仕事が増えますし、使う部材も多くなります。六角形にすることで何か有利な点があったのでしょうか。それとも六という数字に何かを託したのでしょうか…。。

板の部分にはかなりハッキリとハツリ跡が残っています。

この井戸枠の板には古い穴が空いていませんので、古材の転用ではなくこの井戸枠のために新調された材料だったのかもしれません。

柱にはうっすらとしかハツリ跡は残っていませんが、たぶん八角形に成形されているので、丸太をハツって八角にしたものと思われます。

長さが七メートルほどもある大きな木樋もドンと置いてあります。木樋というとわかりにくいですが、木製の排水管、今の言葉で言えば下水管のようなものかと思います。

こうしたものを見るといつも不思議なのですが、中をくり抜く作業はとても大変だったはずで、多少仕事が荒くても水さえ流れればいいようなものですが、内側は異様なくらい丁寧にツルツルに仕上げてあります。伝染病などの関係かもしれませんが、何か当時の考え方として水の流れがうろむ、滞ることに対して凄く恐怖心があったのかなぁという気がします。

もう一つこの木樋で面白いのは、この材がもともとは平城京の一つ前の都・藤原京で使われていた柱だったということです。

外側にハツリ跡が残っていますが、それほど丁寧なものでもなく、この木樋(元は柱)の形にしてもなんとなく丸いという感じで、これはどうも丸太の形のなりのままに、外側の腐りやすい部分だけチョウナハツリ取っただけのような気がします。藤原京の柱といっても大垣、今の言葉で言えば塀の柱ですから、それほど重要でない柱はだいたいそのくらいの精度と扱いで加工されていたような感じです。これはある意味ではテキトーで手抜きですが、木が立っていた時の雰囲気、先に向かって少しづつ細くなっていく様子などもそのまま残りますので、ピッチリと寸法を整えて作られた柱よりよほど優しい雰囲気というか感じの良いものではなかったかと想像されます。

そしてこちらは塀の柱よりはかなり格の高い建物であったはずの東楼の柱根部分。パッと見ただけでもかなり精度よく円形に作られているので、これはおそらくですが、四角→八角→十六角→三十二角と徐々にしっかりと寸法を出しながら成形されていったものだと思われます

 

埋もれていた部分にはハツリ跡がしっかり残っています。たぶんこれは三十二角形までの成形をチョウナで行っています。柱根部分は見えなくなるからこのままで、上の方の見える部分はヤリカンナで削ってもう少し滑らかな表面にしていたんだろうと想像されます(その部分は失われてしまっています)。ある程度精度よく成形されているとはいえチョウナのハツリっ放しですから凸凹しているわけで、そこにヤリカンナをかけていけば刃の引き抵抗も一定ではないですし削り跡の幅も広くなったり狭くなったりユラユラと揺蕩うような感じであったはずです。そういう目で、例えば平城京跡内の復原建物を見ますと

こういう仕上がりになっていまして、これはもう三十二角どころか六十四角形くらいまで平らなカンナで平滑に削った後にヤリカンナで削ったものと思われます。平滑過ぎる面にヤリカンナを当てていますからサラサラと削れていきますし綺麗な仕上がりとなりますが、どことなくペターンとして揺らぎに欠けた面白みのないものになってしまっています。仕事としては非常に真面目でしっかりした仕事ではあるのですが、ではこれが昔の姿であったのかというとそこには大きな疑問符を付けておきたいと思います。これがだいたい現代のヤリカンナ仕上げの面白くないところです。

と、そんなことをやっているうちあえなく時間切れで夕焼け小焼け。やっぱり平城京跡は巡りきれませんでした。また来るよ〜

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