江戸時代

宮本武蔵に建築について聞いてみたら結構いいこと言ってた件

オーディオブックで何気なく購入した宮本武蔵「五輪書」を聴いていたら……ふいに「大工の道においては…」と聞こえてきた。「えっ、今何と??」と思ってよく聞いてみると「大工は、大きに工(たく)むと書くなれば…」とか言っている。このあたりは「五輪書」の中でも始めの導入部分であって、いささか唐突に大工や建築の話が始まる。

武蔵は言い訳みたいに「公家・武家というように家というものがあるから大工の道に喩えて話すんだ」みたいなことを言ってるんですが、正直強引過ぎてなんだかよくわからない例え話になってしまっています。もしかしたら当時の人にはわかりやすい比喩だったのかもしれないですけれども。大工の棟梁が家の直角水平を正すように、武家の大将は天下を正しく治めるのだ、と、いうようなわかりやすい話も中にはあります。

建築の話についてはかなり詳しく、道具のことなども事細かく書いてあります。中でもちょっと興味深かったのは「木配り」について書いているんですね。要するに木をその特性に従ってどう配置するか、というようなことですね。真っ直ぐで綺麗な柱は表の見えるところに使い、節があって強い柱を見えないところに使って、弱くて見た目のいい木は力のかからない見た目重視のところに使い、歪んでいても強い木はその強さを生かして使え、という具合で、ほんとにもうこれは今の大工棟梁でも言いそうなことを言うんですね。これだけ詳しく語るからには、おそらく実際に大工さんとの交流があったんだと思います。この材木の使い方、っていうのが人材の使い方に繋がってくるのでしょうけど、やっぱりその後、天井とか目立つところは上手な人にやらせて下手くそには床の下地でも張らせておけ、みたいなさしずめ今なら中小企業の社長のオッチャン達が言いそうなこと言ってます。

手斧(ちょうな)についての記述もあります。

「削り」が気になる方もあるかもしれませんが「ハツる」の漢字は「削る」なのでこれで合ってます。ただ「削る」は「けずる」と読めますので厄介です。本来フリガナが振ってあるべきですが、訳注者もその違いに気付いてないんでしょう。このあたりでは、大工がいろんな道具を駆使してそれぞれ仕事をこなすように、武士も心掛けねばならない、というようなお話になってますね。で、兵法を志すものはよくよく心しておくように、とだけ言って。これまた唐突に大工や建築の例え話はパタっと終了します。これ以降こういう話は全く出てきませんので、単に大工の話したかっただけとちゃうんか?という気もしますが、今でいうDIYオジサンみたいなものだったのかもしれません。ひょっとしたら一つの道を極めると、何か他の分野にも相通じるものが見えてくるのかもしれません。

この本の表紙の絵も、

武蔵さんが描かれたそうですから。「武」の道・「工」の道・「書画」の道と、何か底に流れるものは共通しているのかもですね。芭蕉さんも言うておるではないですか。「西行の和歌における、宗祇の連歌における、雪舟の絵における、利休が茶における、其貫道する物は一なり」(笈の小文)。。。私のようなチャランポランには全くわかりませんが……(汗)。

 

この他の部分はもう、いかに戦いに勝つか、みたいな話ばかりですね。なんでも「五輪書」は「Five Rings」と英語に訳されてアメリカのビジネスマンの間で流行ったことがあるそうです。そりゃもう生馬の目を抜く、と言われるようなビジネスの世界に生きる人たちにとったら「いかに相手をやっつけるか」は大事ですから流行るのもわかるような気がするんですが、何しろ書いてあることは太刀の構えはどうしろとか目は見開けとかそんなことしか書いてないですから、果たして本当にビジネスに役に立ったのかは甚だ疑問ですwww。たぶん、よくある「東洋の神秘」枠での流行りだったんではないでしょうか……

 

ともあれ、この建築について語った部分は、今でも建築・材木関係の方がお読みになられると十分面白いのではないかと思います。

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