明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
更新が遅くて去年のことになってしまいましたが、12/7に三重県多気町・山路工務店さんの古民家再生見学会に行って来ました。ハツった板を使っていただいているはずです。
大正7年(1918年)築というとですから、およそ105年経っています。外観がこういう感じで、この辺りの民家の標準スタイルとは少し違っています。これには面白いお話がありますが、長ーいお話ですので割愛します。
古民家再生というと、最近少し流行っていますので色々な業者が参入してきましたが、ちゃんと技術と経験のあるところを頼まれたほうが良いですよ。建築にはシロートの不動産屋がテキトーに見た目だけイジッたシロモノや、経験不足のいい加減な設計士や大工さんがテキトーに直してメチャクチャにしちゃったり、を時々見かけます。完成して出来てしまうとわかりにくいですが、長年の間に腐ってしまった材料を取り替えたり、不同沈下といって水平がバラバラになったのを修正したり、と見えない部分に手間が凄くかかって、どうかすると新築よりお金がかかるのが古民家再生です。安易に手を出すものではないです。
この建物も前面の土台が腐っていたので、揚げ屋といって建物を一旦上げておいてから土台を抜いて交換してあるそうです。経験が無いと、そういうのは出来ないです。そしてまた、それは構造部材が見えている造り方だから出来ることです。昨今の「高気密・高断熱」の造り方は構造材にフタをして気密性・断熱材を高めています。構造材は見えないので中で腐っても気付きませんし、気付いても交換がほぼ不可能です。気密性能・断熱性能は抜群に高いけど長持ちしない家、というのが現代の建物なんですね。古い家を見ると、こういう学びが得られます。オサレな建物を作る方々は古民家なんて古臭いものだと見向きもしません。だから彼らの作る建物はハッタリだけのデザインで長持ちせずにすぐ腐るんです。
前置き長くなりましたが、中に入りますと、
玄関の上がり口にも使っていただいていました。何度もこの話をしていますが、靴を脱いではじめて踏むのがハツリ板であることは、とても良いことです。
詳しくは、ずっと前に書いたこれをお読みください。
そして、進むと、
今回は階段の板に使っていただきました。足も滑りにくいので、とても良い使い方です。見た目の面白さと実用性を兼ね備えるのが、個人的には一番好きですね。柳宗悦がいうところの「用の美」というものですね。階段のお仕事の話は時々くるのですが、なかなか実現しませんでしたので嬉しいことです。
動画もあります。
階段の廻るところは、三角の形になりますが、これは四角い板の幅を足しながら現場で大工さんに作っていただいています。時々、「足して三角にした材を送るからハツってくれ」というようなお話もきますが、より煩雑になって仕上がりも悪いのでお断りしてます。そして、そういう業者の相手をしても時間だけ取られて見積もりだけさせられて連絡が途絶えることが殆どです。木のこと、仕事のことがわかってないタチの悪い連中というのは、そういうもんです。仕事が人を作る、とはよく言ったもので…。
100年以上前ですから、丸太の梁はハツってありますね。こういうのは大好物です。
これも、皮付きの丸太のままでは虫が入ったり腐りますから、マサカリでバサっとハツってからチョウナでコツコツ打ってあります。大工さんのお仕事です。なるべく形が整っていたほうが仕事もしやすいですから、コツコツ丁寧に打ってありますね。高い所へ上げてしまう材ですから、あまり見えないですけどザクザクにならないように気を使ってあるのが見て取れます。職人の性(さが)みたいなものですね。チョウナのハツリ仕上げというと、何か特殊なものというイメージですが、こういうハツリ痕と先の階段板のハツリ仕上げは遠いものではなく、地続きで繋がっています。少しだけ意匠側に振ってあるかどうかの違いだけです。
個人的に凄く良かったのが、
この梁ですね。煤の付いた材にマダラにハツリ痕が付いています。なんだろうかとよく見ると、わかりました。これはこの建物より更に古い建物を解体した時に出た部材を転用したものですね。現代こういうことをやると問題になりそうですが、昔はよくあることですし決して悪いことではありません。まだ耐久性があり乾燥した材料を再利用することは理にかなっています。転用するにあたって、この建物に合わせて加工するための印や線を書きたいのだけれど煤けて黒くなっているので線が見ずらい。そこで、水平線や加工の線を引きたい辺り最小限だけハツって木肌を出しているんですね。それならカンナで削ればいいのでは?という方もいるかもしれませんが、年月が経って凸凹した木はカンナで削るのに時間がかかり過ぎる。チョウナでパパパっとハツってしまうのが手っ取り早い。全面をハツるのは手間だし、色はマダラになってしまうけれども、昔の2階というのは居室というより物置きなのでこれくらいで良いだろう、と。こういう書物に載らない歴史を紐解くというのも楽しいものですね。この建物が105年前ですから、この転用材はあるいは200年くらい経っているかもしれません。なかなかこういう造形というのは、自意識過剰の現代人が狙って出来ることではないですから貴重ですね。
ではでは、今回はここまで。
三重県の古民家再生は、
山路工務店さんまでお問い合わせください。
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