松の木というと、やはりネジれる・ヤニが出る、というので現代ではあまり使われなくなりました。昔の建物を見ると、柱・梁の構造材から床板などの内装材まで沢山の松が使われていますが、現代には、こういう荒ぶる木というのはあまり好まれないんでしょう。



そんなご時世に珍しい松の床板のお仕事をさせていただきました。

矢羽根というの弓矢の持つ所に付いた鳥の羽根の模様のことですね。着物の紋様にもなったりしています。チョウナで斜めに刃物を入れるのは、やはりなるべく逆目を起こさないようにですね。同じ方向ばかりでハツると味気ないので斜めの方向を変えることで自然と矢羽根の模様になってゆきます。昔の松の梁丸太に矢羽根のハツリ跡が付いているのも同じ理屈ですね。

この矢羽根はつりにも、ニセモノがあります。

この横木、こういうものですね。いちおう矢羽根の模様になっていますが、これはハツったものではなく、ノミで横から削ったものですね。ですから逆目を避けるために斜めに刃物を入れる必要は無く、ただただ本物が斜めなのを真似して斜めに模様を付けているだけものものです。そういう必然性のないワザとらしいものには、自然な美しさというものが宿ることは無い。美というものがわからない人間がやったもの、そういうことです。こういうバカバカしい仕事は、私がやらなくても誰かがやるので、自分で手を付けることはありません。
床板としては、大阪城の千貫櫓という建物の床板が矢羽根のハツリ仕上げになっています。

とはいえ、これはそれほど古いものではなく昭和30年代の修理の時に張り替えた材のようです。樹種はヒノキです。


いちおう、千貫櫓の仕事に倣ったつもりですが、かなり自分のクセが出てるようです、まぁいいや。もっとザクザクの粗いものになるかと思っていましたが、割と大人しく仕上がりました。これはこの松の木が奈良県吉野の木で、松の割にはネジレの少ない大人しめの木目であるせいかもしれません。吉野の松は、パッと見、トガサワラに似ていますね。
こういうハツリは、ごく普通の10cmくらいのチョウナでハツってゆくだけです。特別な道具は要りません。


一般的にはオススメ出来るものではありませんので、たぶんもうやることは無いかもしれませんが、自分的には結構気に入ってます。こういう荒ぶるものが好きですね。全くオススメは出来ませんが、もし、もしこういうのが好きな人があれば……階段板とかも面白いかも。
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