これも昨年(2021年)のことになってしまいましたが、大阪河内長野市の金剛寺というお寺にハツリ跡を見に行きました。
7年ほど前に行ったことがあるのですが、その時は金堂の解体修理工事が行われていてその見学に行ったのが主な目的でした。その時にこのお寺の中の建物にはずいぶん沢山ハツった跡があったのが印象深かったですので、今回はそちらを主に見て確認しに行くことにしました。
道中…「国宝 桜井神社」という看板を見つけましたので、寄り道することにしました。国宝の建造物は色々勉強になりますので見に行くことにしています。
「国宝」というちょっと威厳のある響きと裏腹に、こじんまりとした親しみやすい建物でした。周りが柵で囲ってあるわけでもなく、ぐるりと近くから見学出来ます。梁にどうも松らしい木が使われているのが意外でした。松はよくネジれる木ですが、やっぱりネジれていましたし虫にもよく食べられた跡がありました。神社はなんとなくヒノキが使われているイメージあったのですが、当時は違ったのかもしれないです。
そして、ここ
これは前にもブログで取り上げた話題ですが、昔の建物だって釘はしっかり使ってあります。よく聞く「伝統的な建物には釘が一本も使われていない」というのは全くのデタラメです。これほど根拠の無いデタラメが普通に広まっているのが不思議で仕方ありません。これは「宮大工は釘を使わない」「釘を使わないのがいい仕事」などのいろんな派生系がありますが、全部デタラメです。
さてさて、金剛寺ですが、前に見学に来た時には足場がかかっていて骨組みだけになっていた金堂がすっかり綺麗になっていました。
中にも入れますが、中の床板が全てヤリカンナによる仕上げになっていました。材料は新しく取り替えられたものでしたが、建築当初の仕上げを再現したということだと思います。槍かんなマニアの人にはオススメです。現代の槍かんなの仕事に共通して感じることですが、総じて刃物が切れ過ぎて仕事が上手過ぎて丁寧過ぎて「当初もこんなに綺麗だったんだろうか……??」と疑問が湧くところではありますが……。槍かんなの跡の古そうなものを見るともっと彫りが深くて結果的に凸凹してて荒々しい迫力があるんですよね……。
金剛寺の多宝塔は姿が良くてカッコいいです。
たしかこっちの方にハツリ跡があったはずだと記憶を辿って歩いて行くと…
この赤丸で囲まれた部分、大玄関と奥殿を繋ぐ渡り廊下、これですこれです。
全体に数寄屋造りというか、お寺の中の他の建物と雰囲気も作られた年代も異なるようです。たぶん、なんとなくですが、昭和の初め頃の仕事ではないかと思います。
近付いて見ると、そこかしこにハツリ目が入れてあります。
これらは単に見た目を面白くしているものと、ハツることによって材料の大きさを小さくして収まりを良くしているものがあります。
中でも特筆すべきはこの渡り廊下の「桁」という屋根を支える部材です。見た目を面白くすることと収まりを良くすること、この二つが非常に高度な次元で成し遂げられています。
動画のはじめ、細い丸太の部分は皮付き丸太のまま、徐々にハツリ跡が入るようになり、いつの間にか六角形に成形されてしまっています。
木は根本が太くて先の方は細くなっていますから、そのまま丸太のままで使うと根本の部分が太過ぎて不細工になってしまいます。だったら製材して大きさを揃えた材料を使えばいいではないかと言う人もいそうですが、それでは全く面白味が無い。そこで、丸太の太い部分だけをハツって寸法を小さくすることで何となく全体の寸法を整えてしまう。その手際が良過ぎて手品のようで天才過ぎる……。
で、おそらくこれ材料がヒノキなんですね。節も入っています。ヒノキの丸太が乾いてしまうと木が硬くなってしまって大きくハツることが難しくなってしまう。ですからこれ、生の木のうちにハツったと考えられるわけです。じゃあそんな自分が使うのに丁度いい太さ長さの生の木が丁度いいタイミングであるかというと、あるわけないです。。。ですから、おそらくですが、これはこういう建物を建てるということが先に決まっていて山に行ってそれに見合った木を伐って、伐ってすぐにハツって形を整えてから乾燥させて使ったんではないかと思われるんです。と、いうか、そうでもしなければこのような仕事が出来るはずがない……。う〜ん、こんなこと今出来る人がいるんだろうか……。
金剛寺には他に摩尼院というこれも「何でこんなところにこんなにハツリ跡が?」という建物があるのですが、今回は公開期間でなかったので見ることが出来ませんでした。これは次回は是非公開時期に合わせて見に行こうと思います。
余談ですが金剛寺の中には、こんなところまでハツリ材が使ってあります。
4、50年は経っていそうですが、栗の木は雨晒しに強いです。
これは宝物館の辺りです。技術の無駄遣いも甚だしいですが(笑)、このお寺を整備した頃のお方がよっぽどハツリ材がお好きであったのだろうなぁ、と想像されるのです。
良いものを見せて頂きました。ありがとう。
これからも楽しみにしています。
ありがとうございます。
コロナのこともありまして更新が滞りがちでしたが、今年はまた色々なところを見に行って記事にしようと思います。
今度ともよろしくお願いいたします。