古い建物を見に行く場合、例えばその建物が築300年経っていたとしても、その全ての部材が300年経っていることは非常に稀です。何百年も保っている建物でも、部分的あるいは全面的に修理されていて、その時に腐ったり折れたりしてしまっている材は新しい材料と取り替えられています。見慣れていないと、目に入る全ての部材が全て古材に見えてしまいます。
例えば、松本城内のこの一枚
ここに写っている材料は殆ど全てが明治時代・昭和初期の修理による新材です。
何度も見ていると、段々と違いがわかってくるものなのですが、今回はそのあたりのコツについて少し書いてみようと思います。ここで述べるのは、あくまである程度の基準であっていつも当てはまるわけではなく、例外もあるということは含んでおいてください。
継いである柱を探す
まず、一番わかりやすいのは、これです。柱はだいたい地面に近い方が雨が当たったり地面からの湿気で痛みやすいです。地面に近い部分が腐ってしまった場合、柱全体を取り替えることはまずなく、腐った部分だけを切ってしまって新しい材料を繋ぎ合せることになります。
こうなっている場合はまず、継いである下の部分は新しく交換した部分、上の部分はより古い部材だといえます。
継ぎ方は色々あります。
前後に二本柱が並んでいますが、二本とも古い柱です。前の柱の下部分は修理で新しくなっています。ここの場合、新しい材は40年ほど、継手より上の古い部分は300年くらい経っています。
古傷を探す
これは、建物の現状とは関係のない穴が開いている、ですとか釘を打った跡が残っている、とか埋木といって傷を木で埋めた部分を探す、ということです。修理で新しくした材料は製材した綺麗な材料が使われるため、こうしたキズが付いていることはまずありませんので、こういう傷のある材はほぼ古い材であるという見当がつきます。
例えば、
こういう埋め木の跡、これがあればほぼ古い柱です。これでおそらく300年くらいです。
同じ柱の下の方には穴も開いています。おそらくここに何かの部材が取り付けられていて、それが取り除かれて穴だけ残った感じがします。
この部材の場合、事情はもう少し複雑です。下端に建具が走るための溝が掘ってありますが、この建物の現状からみても過去にここに戸がついていて戸が使われなくなっただけ、とは思えないのです。
土壁の土さえ付着していますが、この建物のこの位置に壁があったとも考えにくい状況です。と、なると、この部材は以前に別の建物で使われていて、その建物が解体された後保管してあって、現状の建物が建てられる際にもう一度使われた再用材だと考えられます。昔は材料が大事に使われますので、このようなことはよくあります。現状の建物が築250年だとすると、この部材はそれをさらに遡る古い材ということになります。
風化の具合を比べる
これはちょっと難しい方法なのですが、このような一見すると古い感じの柱があった場合
この柱だけを見てもちょっと見分けがつかない場合があります。この場合、まずはこの柱をよく見てみます
ハツった跡もついていますし古いように見えます。この柱の風合いを覚えたら、近くの柱を見てみます。
ちょうど隣の柱を見てみますと、継いでありますので、継いだ上の部分は古いはずです。
その古い部分をよく見ると
かなり風化しています。これがより古く、おそらく当初の材です。すぐ近くでこれだけ風化の具合が違うとなると一本目の柱はこの柱よりも新しいはずです。この建物が移築された40年ほど前に交換されたか、それ以前の修理の際に交換されたかは定かではないですが、少なくとも建築当初の材ではなさそうだという予想は立ちます。継手の下の部分と風合いが似ていますので、なんとなく40年前の木だという気がします。
迷ったらとにかくその辺りで一番古そうな材を探して、その感じと比べてみる
これはお城など400年も経っている建物の場合、江戸後期ですとか明治期に修理されていると、差し替えの新材といえどもかなりの年数が経っていて、どれが最も古い材か差し替え材なのかの見分けが難しいことがあります。松本城などがそうです。係の方も全てが400年前の材であるかのように解説されますので、そのように誤解をしている方も多いと思います。が、実際のところ本当に古い材は2割もないと思います。
はじめに挙げたこの写真ですが、漫然と見ていると、柱は黒ずんでいますしハツリ跡もついていて全てが江戸時代の材だと勘違いしてしまいそうです。しかし、くまなく探せば必ず当初材というものはあるはずです。
こういう穴の開いた木や、
キズのあるこういう木は相当古そうですから、こういう木をジッと見てこの感じを覚え込みます。そうしてから、例えば手近な柱を見て見ると……
いちおう黒ずんではいますが、何かおかしいよなぁ、これ、ということだけでも感じ取れたらしめたものです。
はじめは気づかなったところも、目が慣れてくると
左の柱なんかは明らかに新しいよなぁ、と見えてくる。
ここも、色合いからして新しそうだ、と更によく見ると
節のところに製材機の帯鋸の跡まで残っていて、これはどうも昭和の匂いがする。
と、いう具合に古そうな木を基準にして、修理の履歴と合わせて考えると、だいたいいつの時代の木かが見えてきます。
材の仕上げの荒々しさに注目する
これもちょっと難易度が高いです。昔の材は、丸太からマサカリで荒ハツリをした後にチョウナで整えてある事が多いです。マサカリではバッサバッサとハツっていくので、ボコっと木が欠けることもあり、それが仕上げ面にまで残ることがあります。この跡がある材はまず古い材と見て間違いはないです。なぜなら新しい差し替え材の場合、綺麗に製材した木にハツリ跡をつけるので、そういう欠けの跡は殆ど無いからです。例え同じように表面がハツってあっても、材の作られる過程の違いが現れます。
古い材の例は
これですね、ボコっと欠けた跡がそのまま残った江戸時代の柱です。
こういうのも、そうですね。
微妙な差異ですが、二つの部材が継がれて一本になった古い部分がこちら
新しい部分がこちら
新しい部分には古色が塗ってあり古く見せてあるのでわかりにくいですが、何かしら違いは感じ取れると思います。表面の綺麗さには無頓着な古材と、綺麗な表面を崩さないように神経質に模様をつけていった新材に宿る精神は全く別物です。
最後は念力
半ば冗談みたいですが、最後はこれです。今まで見てきた経験を総動員しながらジィッとジィッと見ていると「これはっ!」と閃く瞬間ががあります。なんとなく、これは新しい、これは古い、とパッとわかるようになります。後で検証してみても、ほぼ間違えずに見分けられるようになります。
長々書いてきましたが、古い建物を見る時の参考になれば幸いです。
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