名栗 ハツった木肌をそのまま見せる

日本の美意識と刃物の切れ

そもそもハツった木肌をそのまま見せるには、刃物自体がよく切れていないといけないわけですが、日本の鍛治技術は非常に優れていて、日本刀のような鋭い切れ味が木工具にいたるまで行き渡っていたことが名栗の文化の誕生に大きく関わってきます。

世界中で使われてきたチョウナですが、これほど切れるチョウナは日本にしかなく、それはハツッた木肌の美しさにも繋がります。

そしてまた、日本独自の美意識も名栗が生まれた背景にあります。

 

 

名栗(なぐり)という言葉の起こり

 

木をハツる時というのは、チョウナの刃を木に叩きつけるような動作になります。木を殴っているようなイメージです。そこから「ナグリ」とも呼ばれるようにもなります。ただ、そのまま「殴り」、ではさすがに語感が悪いためか「名栗」の字を当てられるようになったようです。これはハツリ仕事に栗の木が多用されたせいかもしれません。ですから、ナグリ、と、ハツリ、はほぼ同じことなのですが、名栗の方がやや、お化粧的に見せることを意識したもの、というニュアンスが含まれるような気がします。これは単に整えたもの、という意味ではなく、山ナグリといってあえて荒くハツったものもあるくらいですから、やはり意識的にやったかどうかの違いかと思います。ただ、この定義は曖昧ですので、どちらが正しいということもありません。

 

意識的に「見せる」  お茶人たちの作意

この意識的に見せる、というのが最も早い時期で確認出来るうちの一つに、織田有楽斎(信長の実弟)による茶室・如庵の床柱があります。

(画像の中心の柱)

これはおそらくは杉の細い丸太の全面をハツリ倒したものですが、普通の意味での綺麗さとは程遠く、ハツリ目は不均一でいろいろな方向からなんの規則性もなく打ち込まれ、逆目という木がめくれたような跡もそのままに、あくまで荒く荒く仕上げられています。有楽ほどの武家茶人であってみれば、どのような床柱でも調達出来たはずですが、あえてこの民家の屋根裏にでも使われていそうな丸太を用いたのにはやはり、この茶席にはこの床柱でなくてはならない理由があったに違いありません。当時の建築の最高峰といえば檜の角柱を鉋でピカピカに削りあげた書院造りであったところに、このような粗野とも見える床柱を用いたのですから、当時のお茶人達も腰を抜かしたに違いありません。有楽の師匠の千利休ですら床柱には素朴な杉丸太を用いたくらいで、このような柱は使ったことは無かったはずです。そして、その床柱に対して床框(畳の高さで床柱に取り付く横木)に黒漆の真塗り塗りの言わば一番お堅い材を用いることによって、この床の間がグダグダのだらし無いものになる事を防いで場を引き締めています。こう見てくると、ハツリ目もこの茶室の中ではデザインの一つ、有楽の企み・作意の為せるもの、と感じられます。皮の付いた丸太でも四角い削り木でも表現出来ないものをこの粗野なハツった柱によって表現したかったのだと、四角い綺麗なヒノキの柱に対するアンチテーゼ、そう読み取ることも出来ます。もともと粗野なもの、大して価値を認められなかったものを、その独自の美意識で「美」に昇華させてしまったところに初期のお茶人の凄みがあり、ハツリ跡に美を見出したのは紛れもなく彼らの功績なのです。こうしてお茶席の中に入り込んだハツリ目は、床柱のほか格子、縁側、落とし掛け、壁留めなど和風建築の中で広く使われていくことになります。

名栗の種類

 

亀甲名栗

(写真は杉)

亀の甲羅のような模様から、こう呼ばれます。刃先の丸いチョウナで加工します。用途は柱、梁、床板、壁板、などです。見た目の面白さが注目されがちですが、凹凸の中に空気を含むことからとても暖かみがあり床板や椅子の座面など人が触れる所に使用すると殊に効果的です。最近は機械で加工されたものもあります。その場合も名栗・ナグリという名称で売られていますので、一般の方には区別がつかないと思います。

(栗  亀甲名栗の柱)

 

矢羽根

矢の持ち手の所に付けられた羽根に似た模様からこのように呼ばれます。斜めに交互にハツリ目を付けていきます。一枚の板に施すこともあれば、幅の狭い板を矢羽根模様に何枚か並べていく時もあります。特に呼び方はありませんが、同じ方向に打ち込んでいくハツリ方もあります。

昔の民家の丸太の梁にはマサカリによる矢羽根のハツリをよく見かけます。

これを意匠的に取り入れたのが矢羽根の名栗だといえます。

六角名栗

六角形に形を作り、全面にハツリ目を付けたものです。何故か昔からお茶室や数奇屋建築に好んで使われてきました。桂離宮などにもたくさん使われています。大きなものは柱や梁といった建築部材、小さなものは格子などにも使われます。ノミや鉋で削って作られたものも目にしますが、本来はチョウナでハツったものだけが名栗です。ノミではノミの削り目、カンナでも削り目しか出せませんので、ハツリ目やナグリ目とはなりません。

(六角名栗の手摺  キハダの木  台は杉)

(六角名栗の階段手摺  杉)

八角名栗

 

これも六角名栗と同じく、八角形に成形した木を全面チョウナでハツったものです。用途もほぼ同じく柱・梁から格子や手摺などの小さなものまで様々です。

このほか、16角形(ほぼ丸)や、五角形、七角形などもあります。

 

乱れ打ち

 

これは、あえてハツリ目を整えずバラバラと刃物を打ち込んだものです。室町時代以前のようなハツリ方を模しつつ現代風に仕上げています。この方が野趣が出てよいこともあります。

乱れ打ちの柱。

 

焼き加工

名栗加工をした後にバーナーで表面を焼くこともあります。

これにより木目が浮き出て古材のような風合いになります。

(焼き加工のベンチ)

 

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