昔のハツリ跡

揚輝荘 再訪 2019/8/20

納品のついでがありましたので、名古屋の揚輝荘に行ってきました。昨年の6月に初めて行きましたが、はじめはとにかく驚いてしまってあまりよく観察出来なかったので、今回はじっくり見てきました。基本的に、「見る」というのは何度も通ってそこの空気感みたいなものが感じられるまでいって初めて「見た」と言えるのであって、同じ本を何度も読んで行間まで読めるようになるように、同じ場所に何度も行くのは大切な事だと考えます。

さてさて「揚輝荘」ですが、詳しいことは公式サイトに譲るとして、松坂屋創業者の中村祐民 さんによる大正〜昭和初期にかけて建てられた別荘群です。おおよそ100年経っています。

↓  公式サイトはこちら

https://www.yokiso.jp

建物はいくつもありますが、ハツリ的にはこちらの聴松閣が最高です。ロッジのような和風なような洋風なような不思議な外観です。

まずは玄関のドアが強烈。普段は開いているのですが、ガイドの方が閉めてくださいました。

すると、よーく見ると何やら墨書きの跡が……聞いてみると「中村座衛門祐民」 と書いてあったそうで、これはなんと玄関ドア兼デッカい表札になっていたそうです。ハツリ表札は100年先を越されてました……(汗)。こういう、前に気づけなかったことに気づけるのも、何度も来る功徳。

写真ではよく映らないのですが、ドアの表面は、それはもうボッコボコに「ハツッた」というよりは「殴り倒した」と言った方がいいくらいの荒々しさです。厚みが9cmもあるので、とてつもなく重いと思います。ドアなんて本来は厚みは3cmもあれば十分ですが、これだけ厚みがあれば重厚感と奥行きを感じますし、このドアの先の空間が特別なものであることを暗示しています。

こんなとんでもない玄関ドアは後にも先にもここにしか無いでしょう。これを見るだけでもここに来る価値があります。

この建物はとにかく、あちこちに所にハツリ跡が付いているのですが、階段周りが特に圧巻です。柱や手摺がこれでもかというくらいハツってあります。時々自分も「何故ハツるのですか?何故ハツってあるのですか?意味はあるのですか?」と聞かれるのですが、ここに実用的な意味はほぼありません。

手摺がハツってあって、少しだけ手が滑りにくくなっているかもしれませんが、それを狙ったとは思えません。

何故?、という問いには、登山家がよく言うように「そこに木があるから」としか答えようがありません。

矢羽根模様に張った腰板にも……近づいて見ると

全ての板がハツってあります。この辺りの材料はタモのようです。

洗面も……よく見ると

丸太の半割りがハツってあります。ハツってないと気が済まない病気のようです。

二階の和室の天井を見ると…

さすがに天井板までハツるとクドいから諦めたのか、それでも竿縁という3cmほどの角材はハツってあります。こういう小さいものは裂けやすいので難しいのですが、丁寧にハツってあります。ハツリ目は小さくても何百発も打ち込まないといけないので大変だったはずです。

 

前に来た時にも3階部分が気になったのですが、立ち入り禁止のようで残念でした。

 

あと、ここ揚輝荘には、当初からあるハツリ材、当初からある削って作った“ハツリ風”、修理で差し替えられたハツリ材、修理で差し替えられた“ハツリ風”、修理で機械加工品に変わってしまったもの、様々混じっていますので、一般の方では殆ど見分けがつかないと思います。これは次回に行った時にでも、一箇所づつ見てみようと思います。

 

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