昔のハツリ跡

松本城 番外編

一月の末に松本城を見に行った際、お城以外で見かけたハツリ跡のことを書いておこうと思います。

まず、お城のすぐそばに松本市博物館があり、松本市の歴史に関する展示の中に興味深いものがありました。江戸時代の松本の町の水道に関する展示なのですが、

竹や木が水道に使われていたことが図に書いてあります。そして、発掘された、実際に使われていた部材も展示してありました。

どれもハツリ跡が残っています。やはりこういうものは、削って作っていては時間がかかって仕方ないので、バシバシとハツって作ってしまったことがうかがえます。

この樋のような部材が特に興味深くて、一本の丸太から蓋を割って作り、水の通り路はチョウナとノミで掘り取っていったのだろうなぁと思います。

この上端のハツリ跡が不思議なくらい整っていて、どうしてこんな見えないところを綺麗に整えてあるのかな、と思うけど、やはりこれは、見えないところだからと適当にバラバラに刃物を打ち込むよりは、ある一定のリズムで打っていった方が仕事も早いし、身体も楽だ、ということかなと思います。つまり、綺麗にしようと意図しなくても、仕事がテンポよく進めば自然とハツリ跡にも、ある種のリズムが生まれ仕事の精度も出る、結果として綺麗なハツリ跡が残るということではないかと。よく切れる刃物と木があれば、こういう土木工事の部材さえ美的に処理してしまう、これが日本人の癖というものなのか……。なんというか、もう「名栗」の誕生の一歩手前、というところを垣間見た気がしました。

 

さてさて、そして、松本城内に復元された太鼓門というものがありまして、かなり大きな松の梁がハツってあるのですが……う〜ん、どうもこれは胡散臭い。

なんだかどうも違和感いっぱい。昔だったらこんな風にハツってあっただろうか?機械でやったのかな、と思い、よ〜く見ると

いちおう釿(ちょうな)の刃跡らしきものが付いていて釿でハツったぽいのですが、一つの丸い跡に何度も刃を打ち込んだ跡があり、しかもハツリ残しも多くて、なんとも

ざーとらしい

昔は丸太の梁をハツる時は、木の皮に近い部分は虫が付きやすくて腐りやすいからハツって取ってしまったわけで、そんな時はとにかくバシバシとハツってしまうわけで、こういう整った跡が残ることはまず無い。復元のハツリは丸太を電気カンナで皮を剥いた後に、わざわざ模様をつけるようにハツってしまっていて、自然にノビノビやったことではないので、不自然な作為がありありと出てしまっている。しかも一つのハツリ跡に何発も打ち込んでいるから時間も凄く無駄にかかってしまっている。わざわざ手間をかけて随分と無駄な小細工をしたものだ、と、ちょっと残念な感じでした。先程の水道の樋と比べると、何という違いかと思ってしまうのであります。

 

気を取り直して、松本城から歩いて行ける開智学校へ

たしか「明治の学び舎」という本で表紙にこの学校の写真が使われていて、いつか行きたいものだと思っていましたが、その本を初めて手に取ってから20年も経ってしまっていました。1876(明治9)年築ですから140年くらいたっていることになります。こういう建築は何か気概というのかなんとも言えない精神性をまとっている気がして非常に好きです。中に入ると

もうこんな感じで、明治村の小学校とかもそうなのですが、自分はこういうのに弱くてなんだかもう泣きそうに懐かしいんですね。懐かしい、て、この時代は生きてないなずなんですが、こういうものに感じる懐かしさ、って一体何なのでしょうね。

この校舎は一度、移築されて解体修理されているのですが、それをほとんど感じさせないほどに、床板なども古いものが再用されていて、保存修理の丁寧さがうかがわれます。

その床板に、面白いものを見つけました。

はじめ、こんな所にハツリ跡が、と思ってよ〜く見ると

やっぱりハツってあります。たぶん、床板を張るときに床板の厚みが微妙に違って段差が出来てしまいそうだったので、ハツって均してしまったものだと思われます。何もハツる必要はないしカンナで削って合わせた方が綺麗にいくのですが、カンナは一回の削りで0.何ミリかしか削れないから段差を均すためには何度も削らないといけません。釿(ちょうな)なら一度で2、3ミリはハツリ飛ばせるので仕事が早い。職人さんはこういう時は頭より先に身体が動いてしまってる。サーっとどこまで減らすか印をしたらチャチャっとハツって、はいお仕舞い。いいもの見せていただきました。これが開智学校で唯一のハツリ跡でした。

 

あと、松本市内で蔵の中に

杣角(そまかく)という、山で伐った丸太を生木のまますぐにハツって四角くした柱を見かけました。これはたぶんカラマツの木で、マサカリでスパっとハツりっぱなしのものだろうと思います。松の類は木目がキリっと逞しい感じですのでハツリ跡が映えますね〜こういう柱の作り方も復活させてどこかで使ってみたいものです。

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