雑感

ノスタルジー

前に京都に出張ハツリに行った時のこと、

ハツリの作業をしていて、ふと気付くと側に人が立っている。(こういうことはよくあるのだけれど、何度あっても慣れずにビビる)

お爺さんが「お〜懐かしいのぉ、わしゃチョウナが大好きなんじゃ。今は機械もあるが、あれでは絶対この味は出ん。この凸凹した感じがええんやわ〜。ほなっ、にいさん、頑張ってぇな。」

と言って去っていった………… あれ、誰だったんだ?…………まっ、ええか。

この「懐かしい」と言われるたびに感じる、なんだか複雑な感じ。懐かしい、っていうのは過ぎ去った過去のことで〜しかし、僕ぁ今これをやってるんですが………。自分にとっては現在進行形です。懐かしいなぁ、なんてノスタルジーを掻き立てても、ちっとも自分の仕事に繋がらないし、チェっ俺は忘却の彼方かよっ、と舌打ちしたくなるような気分になる時もあります、正直なところ。

 

ところがあの日はちょっと違った。

また気付くとそばに人が居た。今度は70歳くらいのお婆さんだ。

「邪魔してゴメンね」と口を開いた。

〜やっぱりチョウナの音だったんだね。遠くから音だけ聞いて歩いて来たんだよ。50年ぶりのチョウナの音だ、私のお父さんは大工だったんだよ。

お婆さんの目は心なしかウルっとしている。想い出が溢れ出すのか滔々と話し始める

〜お父さんは職人さんを8人も抱える立派な大工さんだったこと。小さい時にはよく簡単な仕事を手伝ったこと。若い衆がチョウナを使っている時には「向こう脛を打たないように気をつけろ!」というお父さんの声が響いていたこと。お父さんが山にニレの木を切りに行ってそれを曲げてチョウナの柄を作っていたこと。などなど。

話し終えるとお婆さんは、「手を止めてごめんね。ありがとうね」

と言って去って行った。

 

うん、ノスタルジーも悪くない、な。

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