昔のハツリ跡

犬山城でいろいろ考えてみた。あの梁はきっと……

はじめて犬山城に行った時には、天守閣に入ってすぐの大きな梁に圧倒されたものでした。

なにしろ天守閣に入ってすぐに上を見上げると、これがいるもんですから文句なしに「スゲェェ!」となるわけです。しかし、何度か通ううちに「あれっ??」と思うことも出てきました。

まず一番の不審な点は、犬山城のどこを見てもこれに似たハツリ跡が無いこと。創建当初や、江戸時代の修理の時の材なら同じ時代の材に同じようなハツリ跡が残っているはずなのに一つも無いんです。この梁だけが、こんなハツリ方でここにだけある、この時点でかなりアヤシイのです。

次に、この梁は丸太を使っているはずなのに、古いものだとすると有り得ないほど形が整っていること。昔の丸太梁なら斧でハツって形をある程度整えるだけなので直径や形にどこかいびつさが残りますが、この梁はやけにスッキリとした形に仕上がっています。前回よくよく見たらこの梁の天端は真っ平にカンナで削ってありました。これは古い時代だとあまりないことです。

この辺りを見ると、どうもこの梁は製材機か大鋸で製材した後にカンナで形を削りだして、その後チョウナを当てていったものではないかと思われてきます。すると、創建当初ということはまずなく、少なくとも江戸時代後期〜明治以降の比較的新しい材料ではないかと思えてきます。この梁のすぐ近くに、相当古そうなおそらく江戸時代までは遡るであろう梁があるのですが、その様子がこれですから、

この材とあの大きな梁が同じ時代の精神を共有しているとはとても思えないんですね。そうなると、江戸時代後期ということもなく、やはり少なくとも明治以降ではないかと思われます。

そして、もう一つは色と風化の具合の問題です。

古い材ですと、もう少し木目が浮き上がってきているように思うのですが。これは例えば100年以上経ってるようには全然見えないんです。そして、よく見ると黒い部分と色の落ちた部分があり、これはおそらく人が触ったところが色が落ちたんですね。そして残っている黒い部分は割とペターンとした黒で、本当に古い材なら黒でももっとまだらで濃淡があるのですが、この梁の黒はどうも塗ったような黒というか、これは新しい材を古く見せるために黒く塗ったものではないかと思うんです。と、なると、それに似た風合いのものに、犬山城の床板のほぼ90%を占めるこの手の床板があるんです。

色が点々とまだらになっているのはハツリ跡ではなく、色がまだらに落ちているだけです。

黒く塗ったものが人が歩いたところだけ色が落ちた様子ですとか、風化の具合があの梁にそっくりなんですね。たぶん、この床板はあの大梁と同じ時代です。と、なると、この床板はいつのものなのか?がわかると、あの梁の年代も想像がつく、ということになります。前から気になっていた「この床板いつのものなのか問題」これが片付くと自然に答えがわかるはずです。

初めて犬山城の床板を見た時には、丁寧にカンナをかけて綺麗に仕上げてあるのに驚きました。と、いうのは他の有名な国宝のお城・姫路城、松本城などは昭和の修理でほぼ全ての床板が新しくなっていて、それも機械で削ったままの跡が残ったお粗末な床板が全面に張られていたからです。ですので、カンナで仕上げてあるということは、ひょっとして犬山城の床板は昭和よりもっと古いものなのではないか、と勘違いしていました。そう、勘違いです。答えは意外とあっさり出てしまいました。犬山城は昭和36年から始まる修理の時に、以前に失われていた部分を復元した箇所があるのですが、その部分の床板がこれです。

ここは昭和36年頃に新しく作られた箇所ですから、ほぼ間違いなく昭和36年頃に張られた新しい床板であり、これと同様の床板が犬山城の床板の90%以上を占めています。

と、いうことは、あの大梁も昭和の修理の際の新材と見てほぼ間違いないのではと思います。そう考えると、あの梁の妙に整った形、黒く塗ったところの様子、風化の具合などなど全て合点がいきます。まぁ、ちょっと、はじめすごく感動していた身としては残念な気もするのですが、仕方ないですね、これは。。

なにか資料は残っていないかな、と修理報告書を取り寄せてみたのですが、

残念ながら、どこの梁を取り替えたというようなことは書かれていませんでした。代わりに、石積みの職人さんが集まらないから工事が始められない、ですとか、左官さんが集まらないから壁塗りの実験が出来ない、ですとか、石工の〇〇さんが農繁期で休んでいたので工事が20日間ストップした、ですとかボヤキと面白情報満載でした。

長くなってしまいましたが、お読みくださり有難うございます。

次回、では元々の床板はどのようなものであったのか、について書いてみたいと思います。

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