材木・建築業界にいる人なら誰でもご存じ、「源平」という呼び方があります(あぁ、もうこの時点で小っ恥ずかしい)。業界の人でなくても、家を建てたことのある人なら「ウチの床板は杉の源平材だよ」なんて言う人もいることでしょう。どういうものかというと、木の中心のほうは赤くて外側は白いので、下の画像のように赤い部分と白い部分が入った板や角材のことを「源平」って木材業界ではいうんですね(あぁ恥ずかしい)。
普通に製材すれば、だいたいこういう感じになるわけで、特に珍しいものではありません。ネットで調べても、材木屋さんなどがいかにもプロっぽく、知ったかぶりで解説しています。曰く源氏の白旗、平家の赤旗になぞらえて「源平」と呼びます、みたいな感じで(あぁ恥ずかしい)。ああいった文章に、例えば平家物語の「平家うしろをかへり見ければ(源氏の)白旗雲のごとく差し上げたり」(倶利伽羅落)というような文章が引用されていることはまず無いわけです。なぜなら、ああいうものを書いてる人達は自分では決して勉強しないし、テキトーにネットで拾った知識を披瀝しているだけなので…
自分はどうも昔からこの「源平」という言い方に違和感を感じていました。だってどう考えても大袈裟でしょう。赤と白が混じった、ただのありふれた板に昔の人がわざわざ「源平」なんて仰々しい名前を付けたんだろうか?というのがずっと疑問でありました。赤と白なら「紅白」でもよいわけですよ。例えば、年末のNHKの歌合戦が「源平歌合戦」なんていったら、一体今から何が始まるんだと、とたんに物々しくなるわけです。九郎判官が後ろの崖から馬に乗って飛び降りてきそうだ……。
この疑問が解けたのは、もう20年以上前になりますが「最後の木挽き」と呼ばれた林以一さんの「木を読む」という本を読んだ時です。そこには、色々な板の呼び方が写真と共に書かれていて、赤に白いところが入った板は「紅白」と書いてあって、やっぱりそうなんだ!我が意を得たりと膝を叩いたのでした。昔の人は、ありふれた板に「源平」なんて大袈裟な呼び方をしていなかったんです。では元々の本当の「源平」とはどういうものかというと、普通は左右にある白い部分が真ん中にある珍しい板のことをいうんだ、ということが書いてありました。これは木の断面がまん丸ではなくイビツな形をしていて、その板を上手く挽いた時にだけ出る模様です。こういうものは論より証拠、実物が一番わかりやすいです。自分が持ってる板ですと、あまり良い例ではないですが、
これですよ、これでこそ源平の名に相応しい。平家の赤旗が源氏を囲んでいるようであり、しかし大勢は源氏の白旗が占めている。奢る平家も久しからず、諸行無常であります。こういう木目はですね、かなり年数の経った木しか出ないですし、ヒネた味わいがありそれ自体が物語のようでもあるんですね。これが本当の「源平」というものであります。今日はこれだけでもしっかり覚えていってください。
おそらくですが、この源平という呼び方が業界用語っぽくてカッコいいので、よくわかってない浅〜い人達が、普通の板のことを「源平」って呼び始めてそれが次第に一般化してしまったんでしょう。今ではホンモノの源平のことを知る人はほとんどいません。ある宮大工さんの倉庫を見て歩いている時に私が「あっ、ホントの源平の板だ」って言いましたら「お前よく知ってるな」と言われました。もうその方も今80代ですから、その年代の方は知っていたわけです。今の現役の業界の人達は入った時からニセモノ源平を「源平」って呼んで育ってますから、知ってるわけないんですよね。あの呼び方に違和感を感じない感性は大丈夫なのかな?とは思いますけど……。
材木屋さんに電話で注文する時に「杉板を50枚」なんていうと、当たり前のような気楽さで「全部源平でいいっすか?」なんて聞かれますからね。そ〜か〜50枚全部源平で揃えられるんかスゲ〜な(白目)と思いつつ「はい」としか言いませんけどね。届くのは当たり前ですけど、普通の板です。
前述の林さんの本にはですね、「紅白」の中にも端に少しだけ白い部分が入った板は「耳白」って呼んだとか、昔の人は実に細かに分類していたみたいなんですね。言葉が失われる、っことはその言葉にまつわる文化も失われてしまうってことです。だから自分は極力「源平」っていう言葉は気軽に使わないようにしてます、小っ恥ずかしいし。メールなんかですと、話が通じないんで仕方なく「源平」って書いちゃったりしますけれどもね。話す言葉の上では、「ええっと、まぁちょっと白太が入ったくらいで良いです」とか何とか言ってますね。ささやかながら、失われた言葉への哀惜の念を込めて……。
コメント