昔のハツリ跡

大切なことはみんな民家が教えてくれたんだ 旧・箱木家見学記 2017.5.13

古井家住宅を見学したのと同じ日に、神戸市の「旧 箱木家住宅」も見にゆきました。

「千年家」と呼ばれる、民家では日本で一番古い建物です。
千年家、といっても本当に千年経っているわけではなく、千年家というのは古い家に対するある種の尊称だそうで、14世紀・室町時代頃の建築だそうです。なんと創建当初の松の木の柱が6本、今だに使われているらしく、その柱を放射性炭素年代測定法というので調べると、鎌倉時代後期(1283-1307)に伐採されたものだとわかったそうです。要するに、この建物に使われてる前には別の建物に使われてていたわけで、なんらかの事情でこの建物に転用されたというわけですが、700年以上も前に伐られた木が今だに現役で使われているという、ちょっと凄いことになってます。


この真ん中の柱なんか、そうとう古そうで、今の建物と関係ない穴が開いているから転用材ぽいので、おそらく700年の柱だと思います。ハツリ跡でボコボコや〜ん。カンナでツルツルに仕上げた柱は水を弾くので長持ちする、という説の胡散臭さがよくわかる。
ここも古井家と同様にほぼ全ての材がハツリっぱなしの仕上げで、床板もほとんどが修理の際の差し替え材ですが、印象がだいぶ違います。


ここでは、古井家に残っていた室町時代のハツリ跡により近いハツリ跡が新材にも施されています。

乱れ打ち〜。床板は松の木。

縁側に出ると〜

これまた松の木が、とってもいい感じでハツってあります。差し替えの新材であっても当初の仕事に沿うように、という意図がはっきりと感じられます。


縁側の柱も松、これは新材。柱の角を落とすことを面取りと言いますが、この面取りは大きめで、室町の気分が出ています。面取りは、時代が下るにつれて小さくなり現代では糸面といってわずか1mm前後です。面が大きいほど印象が和らぎ、小さければより角ばった印象になります。現代の糸面は少しでも手間を省こうという昨今の世知辛いご時世を反映しているのであります。

それにしても、最古の民家は松・松・松の建築である。松といえばある意味非常に厄介な木で、秋から冬かけての切り旬に伐採しなければ必ず虫が入ってボロボロになってしまうし、乾いていない木を使えば捻れるわ反るわで、決して使いやすい材料ではありません。このことは逆に、この時代には、切り旬しか木を伐らず、また乾燥の時間が十分にとられていたということの証であります。そうでなければ700年も前の柱が今だに使われることなどできないはずです。おそらくは、稲作と兼ね合いで、秋の稲刈りが終わってから山に入って木を伐採し四角く木造り、そのまま次の秋まで乾燥し、秋から冬にかけて建築の準備をして暖かくなった頃に建てる、というようなゆったりとしたサイクルで建てられていたものと思われます。

ここもやはり、柱は石の上に立っている。現代はコンクリートの基礎の上に木の土台を横に寝かせて、わざわざ腐りやすいように腐りやすいように建てている。

構造はあくまでシンプルに。必要以上に大きな材を使わない。これも時代が下ると「どやっ?」と言わんばかりの不必要に大きな材が目立ってくる。

壁は竹を編んで土を塗りつけた壁である。粘り強い構造体であり、これ一つで断熱と仕上げ材を兼ねる。今の建築だと、壁の中には斜めの突っ張り棒(筋交い)と断熱材という建材が詰まっているだけ。

こうしてみると、驚いたことに、最古の民家は長持ちする家の最高のお手本なのに、今の住宅に似ているところが一つも無い。今の住宅が長持ちしないはずである。そしてまた、ここを訪れる人もそう多くはないのである。考えてみると恐ろしいことだが、仮にあなたが家を建てる時、その家を設計する設計士なり施工する大工が箱木千年家を見た事がないとする。と、彼らはあなたがこれから全財産と30年先のローンをつぎ込んでまで建てようとする建物を長持ちさせる術については、殆ど知らないことになる。これほど勝ち目のない投資話も無いんじゃないかな〜と思う。
そうやっぱり、民家はこの国で心地よく暮らしてゆくための知恵の宝石箱なんや〜〜〜〜〜。

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