松専門 「山崎木材」さん あるいは松に沼った人々

三重県名張市

松しか売ってない材木屋がある。

街道沿いに、いきなりこの景色が目に入る。

この伊賀地方近辺では、まず焼き物の薪といえば赤松、家の構造材では梁まわりは必ず松。そのためこの伊賀地方近辺では松の木の植林が盛んで、松専門の材木屋さんがかなりありました。ですが、建築業界の衰退で、松の需要は激減して松専門店は少なくなり今は数えるほどしかありません。

ここは名張市の「山崎木材」さん

三重県名張市東田原2535

電話 0595-65-2929

http://www.jimatsu-yamazaki.sakura.ne.jp/

建築用材の国産の赤松をメインに、

こうした土木用の杭(信州の唐松)なども扱っておられます。全て国産の松です。外国産のものは米松(ベイマツ)というのが多く出回っていますが、日本の松はマツ科マツ属、米松はマツ科トガサワラ属でモミやツガに近く、日本の松とは全くの別物です。材木業界の悪習ですが、ちょっと松に似ている木に米松と名付けて流通させているだけです。それなりのもんでしかないです。あれを松と呼ぶのはちょっとアタマ悪過ぎです。

「山崎木材」さんでは、梁用に長い長い赤松丸太も天然乾燥で在庫しています。こうした木は乾燥に最低でも2年くらいはかかりますから、こうして乾燥させて出番を待っています。10m以上のものもあります。

松の木は乾く時にネジれながら乾くため、乾いていないと使えないです。

四角い製品の場合、最終的に必要な大きさよりもだいぶ大きめに一度挽いて、1〜3年乾かすとネジれながらプロペラみたいに変形する。それをもう一度挽き直してようやく製品になる。杉やヒノキなどの素直な木に比べたらだいぶ手間と時間がかかることになります。

人工乾燥にかけると脂が抜けてスカスカになり、その割に水分が抜けないのでインスタントな人工乾燥に向いていない。松の人工乾燥材をウリにしている製材所の松を使ったことありますが、表面だけ乾いてて中身はビチャビチャ、少し置いておくとネジれ出す、よくこんなものを自信満々で出してきたもんだ、というロクでもない代物でした。そんなこんなで製品になるまでに時間がかかり過ぎるので、松専門の材木屋さんは必然的に広い敷地に膨大な在庫を抱えることになる。

僕が出会った松専門の材木屋さんは皆んな口を揃えて自虐的にこう言う「こんないつ売れるかわからんようなモンをこんなに並べとって、アホみたいなもんですわ」「好きやからやっとるだけ」。ちょっとした狂気を感じる。手間がかかる松の木のお世話をするうちに、松の魔力に取り憑かれたような人々が多い……。

松は伐る時期にも一番気を使う木で、11月〜2月くらいの木が休眠中に伐った木でないと長持ちしない。伐り旬の悪い木は、めちゃくちゃ白蟻の入りやすい木になってしまう。古い建物を触ったことのある方ならだいたい知ってますが、白蟻が入った松の木はもう素手でポロポロ取れるくらいにボロボロになってしまう。伐り旬に伐った木かどうかの見分け方は、木口にヤニが吹き出しているかどうか。休眠中でない時期に伐られた木は樹液が動いているので木口からヤニが沢山出る。いい時期に伐られた木の木口はサラサラだ。あとは外側の白太の部分がカビが生えたように青く変色しているかどうかでも見分けられる。が、これは絶対的な基準ではない。伐り旬に伐った木でも丸太のまま外に置いた時間が長いとこの変色が見られる。ただ、伐り旬を外した木はよりこの青い変色が入りやすい。やたらこの変色が入っていて、しかも触った感じがフワフワしたようなのは伐り旬が悪い木だと思っていい。使わない方がいい木だ。

さらにもう一つ気をつけないといけないことがある。それは芯材(赤い部分)の率。万が一白蟻が入った場合でも白い部分だけ食われることが多く、赤い部分はあまり食われない。

なので構造材の場合、このくらいの割合になっていないとマズい。赤い部分の割合が3割にも満たない松の木があるが、これは同じ松の中でも全く品種が違う。赤身の少ない松の代表品種は岩手あたりに多い南部赤松。赤い部分も色が薄くてピンク色、全体的にフワフワしている。構造材には全く向かない木。僕がはじめて出会った松専門の材木屋さんはもう商売を辞めてしまったけれど、南部赤松についてはこう言ってた「ウチは南部赤松は力が無いから一切構造材用には挽かない。あれは綺麗だから板向き。階段板とかにはええな。梁にはアカン、あんなもん自重で垂れ下がる」。南部赤松は大量に出るので、ここ三重県でも普通に材木市場に並んでいる。何も知らないと、そういう耐久性の低い松を買わされてしまう。よく「松は白蟻が入るからダメだ」という話は聞くが、これはそういう白い松しか見たこと無い人・使ったことがない人が言っている。そういえば、某プロフェッショナルな番組に登場していたのも白い南部赤松だった。あれは材料の選び方・使い方も全く感心しないお粗末なものだった。あれでプロと呼べるのなら、プロなんて安いもんだ。

赤身の率のだいたいの基準としては、丸太の場合なら「太鼓に落とす」といって側面を平らに落とした時に、側面が真っ白な木は構造材に向かないダサい木。ダサいばかりか長持ちしない。

これが案外知られてなくて、松なら何でもいいと思ってるみたいでInstagramなんかでも「手刻みで組みました!」みたいな画像を自慢気にあげてる投稿をよく見ると、こういう真っ白の松を使ってたりして頭がクラクラする。そんな長持ちしない材料なら手で刻もうが足で刻もうがプレカットでも何も変わんない。ダサい、ダサ過ぎる。材料と技術の無駄使いでしかない。ものを知らない人がやることというのは、やってる本人だけが楽しく、側からみると滑稽で、そしてやがて悲しきことである。もうちょっと勉強して出直してください。

丸太を梁として使う場合、太鼓に落とし、

次に、おおよそ八角形に成形する。これぐらい赤身の張った松だと、ほとんど赤身だけになってしまう。8面に削っても少しも赤いところが無い白い松とはまるで違う。全くの別物。白いフワフワとした松と比べたら耐久性が段違い。かといって値段が2倍も3倍もするものではない。少し高いくらい。どちらを選ぶべきかは迷う必要すら無い。

その辺のよくわかってない大工さんがやるだけならまだしも、名古屋城の本丸御殿のような仕事でも、そういう赤身の少ない松丸太が使われていた画像を見たことがある。他の丸太はヒノキなのにそこだけわざわざ松を使ってあった。と、いうことは、より負荷が掛かる場所であるということ(松の方がヒノキより荷重に強い)。なのに松の中でも弱い松をわざわざ使ってしまっている。何がしたいのか全くわからない。あれではヒノキを使った方がマシではないか。あれだけ予算もかけ、技術の高い職人さんを大勢集めた現場ですら、材料を入れる担当がダメダメだとこういうことが起きてしまう。残念でならない。

なぜこうなるかというと、だいたいの人は「切ったり削ったり」とか、そういうことが「職人技」であるとか「匠の技」と勘違いしているので、「材料の選定」というそれより遥かに大事なことが軽視されがちだから。材料が悪ければ、そんなの小手先の技術ではどうやっても救えないのに、だ。さきのプロフェッショナルな番組でも小手先の小細工をやたら褒め称えていたが、材料が間違ってたら何やってもムダでっせ。

他の木では少々伐り旬が悪くてもどうにかなってしまうし、そこまでシビアな扱いをしなくても乗り切れてしまう。扱いの難しい松だからこそ、松の扱いを見れば小手先の技術より大事な「材料の選定」という本当の技術の差がよくわかる。そういう意味でも松は本当に難しい、技術の本質が問われる厳しい木だと思う。

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