ポニーの里ファーム
前にX(旧ツイッター)を徘徊していたら、「キハダコーラ」という文字を偶然見つけました。キハダは材木として使ったことがありましたし、皮を黄色い染料として試してみたこともありました。また皮がオウバクという漢方薬の材料になることも知ってはいましたが、コーラまで出来るんかいっ!、と思いました。見てみると奈良県の「ポニーの里ファーム」さんが作って販売しているらしい。それからこの会社が気になっていました。時々「キハダの皮剥き体験」もやっているらしい。今年もやっているようだ。なかなか都合が合わず、暑い暑い時期になってしまったけれど8/1に参加してきました。ちなみに、キハダコーラはオウバクを使った苦いやつではなく、キハダの実を使っているそうです。実まで使えたんかい、キハダ、有用植物にも程がある。
↓「ポニーの里ファーム」さんのホームページはこちら
https://www.ponynosatofarm.com
京都と奈良の県境あたり、山の中での作業です。この辺りではお茶畑をやめてしまう際に、代わりに薬の原料の皮採取用にキハダを植えることが多かったようで、樹齢20〜30年のキハダがまとまって育っています。キハダ自体が希少であまり見かけない木ですので、まとまってキハダが生えている様子は珍しいものです。外側の樹皮は緑がかった白色で庭木にしても風情がありそうですが、そうなっていないのはおそらく標高が高いところに適した木なので庭木にしても上手く育たないんでしょう。
この辺りでもまだ少し標高が足りないのか樹皮にコケが多く付いていて、ちょっと木が弱っているよう感じがします。皮を採取するには問題ないですが、大きな材木を得るのには適地ではないのかもしれません。(真ん中の筋は皮を剥きやすいようにチェーンソーでつけた筋目です。中の黄色い皮が見えています)
木の皮はだいたい、表の皮と内側の皮の二層に分かれています。キハダの場合、薄い外側の皮は染料にも薬の原料にもならないので、まずは表の皮を取っていきます。この皮剥き作業の最適な時期は梅雨時だそうで、一番水分が多く剥きやすいそうですが、今は八月、ちょっと時期を過ぎていて皮同士がくっついていて、個体差もありますがなかなかすんなりといきません。
表の皮をめくると、内側の真っ黄色い皮が出てきます。
これが黄柏(オウバク)で胃腸薬の原料や染料になります。
今度はこれを剥いていきます。こちらは分厚く、表の皮の3倍以上の厚みがあります。5ミリくらいでしょうか。
ヘラを差し込んで、コジるようにすると内側の木質の層から剥がれてきます。小さく切ってしまってもよいのですが、なんとなく意地で、なるべく大きな一枚ものでめくるようにやってみます。
めくった皮の内側部分は更に真っ黄色ですね。ほぼほぼ蛍光ペンのような色です。これを舐めると非常に苦いです。いかにも胃腸薬って感じがします。
ちょっと裂けちゃいましたが、内側の皮が取れました。これで一連の作業は完了です。あとは同じ工程の繰り返しとなります。
コツを掴むと、割とサクサク進みますね。
手はエラいことに…(手袋推奨)
終わってみると作業自体も楽しかったですが、やっぱり山に来るといいですね。普段、木の仕事をしていても扱っているのは製材されて乾燥した板なり柱ですから、生の木の持つ「荒ぶる魂」みたいなものは抜けてしまってますから。単なる材料ではなくして、さっきまで命のあった木の命をいただいて仕事をしてる、させてもらっているんだということを思い出す、原点に帰ってくるような気がするんです。これはモノ作りにとって非常に大事なことで、例えばモノ作りの現場で材料を足蹴にするように粗末に扱う人というのをたまに見かけます。「おい材木屋!この木を削ったら節が出たから交換しろ!」「すぐ持って来い!」なんて信じられない事を言ってる人を見たことあります。こういう素材に対して高慢チキな人達に100%共通する特徴は「山で木を伐ったことが無い」ということです。木の命を頂く、という厳粛な場にに立ち会ったことがないので単なる材料としか木を見ていない。自分が材料より上だと勘違いしている。オレの加工技術がスゴいんだ、オレの削りがスゴいんだ、と技術と屁理屈に溺れた人がSNS上にも腐るほどいるでしょう。こういう輩は何年、何十年やってようが、ただの加工屋さん・削り屋さん・組み立て屋さんで、「職人」と呼べる域まで達してない、というふうに自分は思ってます。マジで木の仕事に携わる人は最低でも一回は山に来たほうがいい、いや来ないといけない、つーか、来ないで職人を名乗っちやダメダメ。
あと、こういうイベントに来ると、不思議なことに何らかの繋がりがある人に出会いますね。さっきからお隣で作業してる人の話題に上ってるT田さんは僕の知ってる人だよう……あれっ、Hさんと一緒に仕事したことあるの? とかとか……世間は狭い、悪いことは出来ないねぇ……せんけど。
参加されていた方から、こういうお薬もいただきました。
キハダの皮・オウバクが配合された胃腸薬です。700年前、鎌倉時代から作られているそうです。命名は後醍醐天皇、、ってマジかっ。
ほかにオウバクが使われている薬というと陀羅尼助(だらにすけ)というのも有名ですが、陀羅尼助は1,300年の歴史があるそうです。奈良は深い…底抜けに深い…。
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